Note:14
泣きたくはないし、泣かないでいて欲しい。
そして私の仕事は伝承を捏造することに変わった。それはあくまでただの仕事なのだから。たとえそれが歓喜の酒であろうとも、結果として体液にしかならないのなら、女神の酌だろうが、寂れたスナックだろうが同じ事なのだ。
私の目が世界を舐めつくすように回る。
その反動で、積み重ねた理論の隙間に指を差し込んでしまった。
おそらく時が来たのである。
甘く延びた月の影で愛し合う。もちろん彼らはその月のことを知らない。
メゾンは文字通り、すでにとろけている。
甘いシモンは知らない月の上。
もちろん彼らはその味も知らない。
美しく閉ざされた自己完結をこじ開けるべく、私は当然のようにバールを手に取るべきなのだろうか。何もないユートピアを望みながらも。
彼女の腱が奏でるエロティックな旋律が私の気を紛らわせてくれていた事に、そしてその重要さに気が付いた日に。そしてそれは同時に、情熱の中にはロマンスなど存在しないと教えている。
飽和、ということなのだろう。
それは愛によって深く定義された。とどのつまり、私の分離症的な側面は未だ、穏やかな揺らぎによって形成されているのだ。
午後十一時、彼はロングハッターズクラブでそんなことを考えているはずだった。
ただ今は薄いグラスにまとわりつく(マトワリツク)霜が鬱陶しい。
自分のだらしなさを呟く耳障りなトップチャートが麻薬のように染み込んでくる危険な夜に、破壊衝動とともに押さえつけられたのは、人々がいうところの個性とやらだったのかもしれない。変わろうと信じた自分は、それ故、燃えつき始めている。世界に正確な直線が存在しないのなら、いつかは交われるはずなのに。
私はいつも身を焦がしているのだ。



